またいつでも禁煙できる、今はスペシャルな一服なのだ、と思いながら、旅行から帰ってきても煙草を吸い続け、今じゃ昔の通り、一日一箱ペースで、ラークを吸っている。目が覚めるとテーブルの上の煙草とライターを持って階下へ行き、トイレへ行った後にまず一服だ。うんと心に馴染んだ動作。最初のうちは気まぐれでチャンピックスを齧っていたが、胃が痛くなるのでやめた。自分で吸ってて臭いし、部屋も服もヤニだらけ、以前の通り痰がからむ日々が戻ってきたのだが、もういい、諦めた。再びその気になるまでは、金がかかって肌にめちゃくちゃ悪くても、喫煙者でいよう。

 

もういい、と思えることが増えた。若干活動的になった私に気づいて家族はブレーキをかけることを勧めてくるが、私は躁鬱病じゃない。そもそも私は躁鬱病じゃね〜んだよ、という態度を取っていたら、一層心配をかけている。でも興奮はしていない。薬のお陰なんだろうとは思うが、落ち着いているし思考もまとまっている。数カ月ぶりに生理があった。体重が増えて栄養状態もいいからだろう、精神的にも。

この小さな錠剤ひとつで何もかも解決するのか?というほど、奇跡のような薬だ。あんなに死にたかったのに、全然死にたくない。生きていられる。ずっと短時間睡眠、早朝覚醒が続いていたが、今じゃだらしなくよく眠り、部屋も散らかす。徹底的に掃除していたけど。

 

私は痩せている、少なくとも太っていない。そう思うようになった。というより、唱えている。痩せるか、死ぬしかない、と呪文を唱えていた頃とはだいぶ変わった。食っても、食わなくても、この苦痛が続く…と常に食い物のことを考えていたけれど、食っても食わなくても別にこのままだと思える。食べ物のことを考えたり忘れたりもできる。

深酒しすぎたりして、ハイスピードでカパカパ飲んでいると、どうでもよくなって、カップラーメンにお湯を注ぎ、食パンを口に押し込んでいる。食っている最中から自動的に吐けそうなくらい胃が膨らんでくる。酔いも回って壁にぶつかりながら風呂場に行って洗面器に袋を張って吐く。力むな、顔に力を入れるな、反射で吐け。浮腫むから。よくこんだけ入ってたなというくらい戻す。翌日、咳をすると喉から血が出ていた。口に物を入れるとヒリヒリする。胃酸で喉も口の中も焼けている。過食嘔吐もうやめよう、と思った。やめられるだろう。切実に食って、切実に吐いていた時もあったが、今はそうじゃない。趣味みたいなもんだな、と思いながら、酔いすぎた時の気晴らしだ。

歯が溶けるとか健康面に配慮してというより、もうそこまで食べなくてもいい。辛いものを食べて喉が痛くて全部吐き出せなくなりながら、もうやーめよ、と思った。きっとまたやるんだろうが、一生食えないの?という不安はもうない。

人前で水着なんて着られないと思って、学生時代の全ての水泳の授業を仮病で休んでいた。アトピーが理由で服を脱ぎたくない男子と二人で毎年、夏休みまでの間、グランドをならしていた。修学旅行でも、一度も、皆と風呂に入っていない。生理だとか筋肉注射したとかよくわからない言い訳で。みんななぜ裸になれるのかわからなかった。そう思うと昔から自分の体型にコンプレックスがあったのかもしれない。多かれ少なかれ、みんなあるだろうが。一度でいいから水着で遊んでみたいなあと思っていた。とは言え、胸もないしそもそもの体があまりいい方ではないから、オリジナルのデザインで、胸より骨が出ていた方がいい、といい年して、憧れを歪ませた成れの果てだ。体重もカロリーももういいだろう。そう思いたかったけど、本心でそう思えるようになるまでにはかなり時間がかかった。あんなに怒り続けていたけれど、ようやっと解放された。