十年前の夏よ

昔、働いていたお店のお客さんと従業員の皆で仕事終わりに飲みに行った時、ふと気づくと、長い間カナダに住んでいたという、男前と二人きりになっていた。カナダにまた住みたい、というのが口癖だった。君の故郷は何があるの?と言われて、別に何もない、と答えると、じゃあ何して遊ぶわけ?と聞かれて、ボーリング、と答えたら、それって退屈って意味だけど、と言われた。つまらない、って意味の、boringを知らなかった。居酒屋の狭い二階席のカウンターに立ちながら、退屈な故郷と、遠いカナダを一緒に思い出した気がした。そのボーリング場も、今じゃ無くなったけど。

 

十年前の2009年は冷夏だったはずと思って調べてみると正解だった。マイケル・ジャクソンが死んだ年っていう風に覚えている。その頃はボーリング場もまだあった。私はバイト終わりに男友達の家へ泊まって、実際、友達っていうわけでもなかったが…。Tシャツとジーパンをどれでもあげると言われて着て帰った。Tシャツもジーパンも随分デカかった。その男友達が着てもおそらく。帰り道で、この服は盗品なんじゃないかと思い当たった。この夏が終わりさえすればと思った。そうしたらきっと思うようになると信じていて。私のいいように思う占いではそのはずだった。『俺はこれからがいよいよ俺なんだ』って。ずっとそう思い続けてきた。今はそのいよいよが今こそで、「俺はこれがいよいよ俺なんだ」って思うしかない。いよいよこれが俺の人生いっぱいか?