風はない

文フリで84歳のお爺ちゃんが私の本を買ってくれ、翌日メールをくれた。「今朝がた、ボーン・スリッピーを読みました」と。本の中に入れた短編のタイトルだけれど、84歳のお爺ちゃんが、ボーン・スリッピーって言うのは、なんかすごい!と思った。

そのお爺ちゃんが、ローカルラジオで私と会ったことを話すと言うので、その時間になると、スマホでアプリを入れて、聞いてみた。お爺ちゃんが、どういう人なのか、まだちょっとよくわかっていなかった。会社の会長さんらしい。でも、会社のPRは全然してない。これからの時代の話だった。最後まで私との出会いの話はなかった。いや、もちろん、そんなこと期待するのはおかしいというか、そんな話は、どうでもいいのだ。駐車場の陰でラジオを聴いていて、胸が熱くなってしまった。でもまだお爺ちゃんが、何をやっている人なのかよくわかっていない。

 

自分のバイクが置いてあるところへ戻ると、おじさんが私のバイクをじろじろと眺めていて、それ私のバイクなんすよwwwと声をかける。まだ新車の頃は、ピカピカでよく声をかけられたけど、三年も経つと、だいぶ錆びてきた。デカいね。原付なのに、結構荷物入るんだよ、とか、走行距離を見て、こんなに走ってんのかよ、これ、27万もした。高いな、などと話す。「盗んじゃおっかな」とおじさん。「やめといてよ」…盗んだバイクで走り出す。

 

血液検査の結果まで一時間かかるという。同じ病院に祖父が入院してる。三月に大動脈瘤がどうとかで手術して入院してから、さすがに今度こそと思ったけど、どうにか持ってる。こういうことが、もう何度もあった。一度もお見舞いには行っていない。

祖父とは、同じ家に住んでても、一年に三回くらいしか話さない。別に憎しみ合っている訳じゃないけど、愛情がないというような感じ。自分はなんて冷たい奴なんだろうと思ったこともあったけれど、向こうから好かれてもいないのだから、なんか、仕方ないのだ。小学生くらいの時から、家の外で会うと私と認識してもらえないレベルで、祖父は私に関心がなかったし…。それを今になって、特に悲しいとか思っている部分は、もう本当にない。ただ、弱っている人を見にいくのが、嫌なだけだ。

もうかなりボケてるって聞いてたから、話にならないだろうなと思ったけど、行ってみて、わかる?と聞いたら、わかる。と返された。「ご飯食べてる?食べた方がいいよ。」あんまり、食事を取らないらしいのだ。「食べてるけど、ちょっと量が多いね。」ボケてる感じは、しないけど、今日だけなのかな。「今、血液検査して、一時間かかるっていうから、来てみたんだ」「そうなんだ。」これでもう、数年間分くらいは話したな。「なんかいるものある?」「いらないね」なんか欲しいって言ってくれたら、いいんだけどな。

「今日、暑いよ。27度もあるらしい。」天気のことくらいしか、する話がない。

「そう。風は?」

「え?」

「風はある?」

なんで、ここにいて、風があるか、気になるんだよ。