台風15号 覚え書き

実家に帰っても手伝えることないよなあとは思ったものの、帰ってきてくれたら嬉しいよ、と母が言うので、どうやって帰るか考えてみた。自力で帰るには電車が止まっている、と思っていたら、仕事が終わるとちょうど電車が動き、本数も通常通りだったので、いつもと同じように帰れた。駅が停電していたけれど。

帰った頃には、ちばテレビ?ってくらい千葉のことをテレビでやってるし、馴染みのところも映るので、知り合い映りこむんじゃないか…なんて、テレビ見ていた。電波がないので、携帯電話はただの時計。でも、何キロか行ったところは電波もあったりする。

祖父が部屋に専用の固定電話を引いていて、今回はそれが役に立った。固定電話には迷惑電話ばかりかかってくるし、叔父がオレオレ詐欺の電話取ったりしてたので、何年も前に解約してしまったのだけれど、そういえばと、祖父の部屋のFAXも付いていないただの「電話」を停電が解消された時につないでみたら使えたので、これで連絡を取り合っていた。

しかし風呂は壊れていた。それから買ったばかりの自動車のリアガラスが割れると言うか、全部無くなっていて、すごく風通しが良くなっていた。保険を使うにはレッカーを呼ばなきゃならないらしいんだけど、レッカーや代車も今は全部出払っているみたいだった。スタンドでバイトしてた時に修理工場の知り合いがいたので積載車頼んでみたらすぐにきてくれて助かった。

バイクで近所を走っていると、そこらじゅうの電柱が壊れていた。かなりの台数、それを直している車ともすれ違った。確かに二週間とかかかるかもしれないと思った。杉の木が折れまくって、それが電線に引っかかってしまう。

ATMも停電で使えないところあるので、財布にお金なかったらまずい。携帯の充電はソーラーのたくさん充電できるやつがあるといい。ラジオもソーラー使っていた。携帯の電波の繋がりやすさでは家族と友人の中だけだけど、三大キャリアだとドコモ、auソフトバンクの順で繋がりやすかった。仮に都内だったらそんなに関係ないのかもしれない。今のところ家の中ではドコモだけが電波がある。停電してる地域にはかなりむらがある。近所でも向かいの家は停電してたりする。駅前や大通りの信号は点いていたけど、奥の方に入ると暗いところも多かった。お店の食べ物は昨日、今日はもう普段通りに揃っていた。三日前にコンビニに行った時は棚に「蒙古タンメン中本 北極ラーメン」以外は何も見当たらなかった。

実家の方が停電、断水してるらしい。通信状況も悪く、家族と電話できなかったけど、さっきやっと話したら、コンビニやスーパーに物がなく、車で都内まで買い出しに行くと話していた。友人と電話したら、カップラーメンとか差し入れして欲しいよ、と言っていた。でも帰るための電車も止まっている。川崎まで仕事で毎日行ってるから、その時車に乗せてくって言うけど、次の休みまで、停電も断水もしたままだろうか?水どうしてる?と聞いたら、うちは湧き水があるから、というので驚いた。

このへんはなんかあったら壊れるだろうなと思っていた建物は全部飛んだり崩れたりした様子が写真で送られてきた。自分の家も庭がぐちゃぐちゃだ。かなり暑いので、猫、大丈夫?と聞いたら、バテバテ、というので、かわいそうで心配になる。以前働いていたガソリンスタンドも営業していないらしい。唯一、営業しているガソリンスタンドの前は大行列。冷房がないから、車の中で過ごしている人も多いんだろう。

二年くらい前も一晩だけだったが真夏に停電した。範囲は狭かったけど信号機が止まった。冷凍庫の物が全部溶けたが暑いくらいでそこまでではなかった。ロウソクを立ててカセットコンロで晩飯にした。他の家はどんな風に過ごしているんだろうと思いながら。ベッドで寝そべっていると急に家中の家電の入る音がして元どおりになった。

見違えるような故郷をこの目で見たい。大事な時にいつもいない。

まぼろしの思い出

校庭の倉庫の脇で煙草を吸っていると、クラスメイトの友樹が掃除用具を片付けにやってきた。下を向いてやり過ごそうとしたら「なあ」と声をかけられた。「え?」と馬鹿みたいな返事してみると、「別に言わないけどさ、」と友樹。見られたって、どうせこれから夏休みに入って、新学期が始まる頃には忘れて、無かったことみたいになるだろう。もっと他に何か言ってくるのかと思ったけど、黙ったままでいるのが気詰まりで、「一本いる?」と聞いてみた。「タイムが落ちるからいい」と友樹は言った。友樹は水泳部のエースだった。大事な試合を控えてるからって。

夏休みが明けて、また倉庫の脇で鉢合わせた。「試合どうだった?」と声をかけると「別に、ダメだったよ」と言う。「じゃあ、一本いる?」と聞いてみたら、「受験があるから」と今度は言う。友樹は成績も良かった。きっと頭のいい大学に行くんだろう。まだ少し、何か話ができるかと思って、「もう水泳部も引退だね」と言ってみた。友樹は「そしたらすぐ卒業だよ」と言って戻って行った。

卒業式が終わって、廊下で友樹が彼女と写真を撮っているところを見た。目が合うと、少し遠くで煙草を吸うモノマネをして笑いかけてきた。写真くらい一緒に撮ってみたかったけど、友樹は女の子にもモテる。自分が一緒に撮ってとは言い出せなかった。ほんの少し話したことがあるだけ。それもすぐに忘れられてしまうだろう。

噂話は聞いたけど、偶然どこかで会うこともなく時間が過ぎて、また顔を合わせたのは成人式の二次会だった。私はこんなにお酒を飲んだのはほとんど初めてで、少し気持ち悪くなって外の空気を吸おうと思った。会場の外の駐車場に灰皿が置いてあり、一人でそこにいるとたくさんお酒を飲んだのか赤い顔をした友樹がやってきた。

「一本くれよ」

と友樹が言った。ガードレールに二人で寄りかかりながら、煙草一本分だけ話をした。友樹は、もう水泳はやめたこと、あの頃の彼女とはとっくに別れたこと、今はもっと楽しいことがたくさんあることを話してくれた。火照った顔に冷たい空気が気持ち良かった。きっと明日になったら、こうして喋ったことなんて忘れて、私だけがこの日のことをこれから拠り所みたいにして生きて行くことになるんじゃないかと思っていた。

夏休み日記(22)

疲れてしょうがないんだけど、慣れるんだろうか。早起きして夕方前には帰宅して、ビール一本飲んでから掃除、洗濯とやって、連勤になってくると夕飯作るの全く無理。なんか投げやりな意味不明の料理作ってしまう。自分の世話だけでも精一杯で、化粧水塗るのさえ「めんどくせえ…」と思う。でもこれ、多くの人がやってることだもんなあ。私だけできないとは言えない。立ち仕事で足が痛いが、それはしばらくしたら慣れるだろう。高いヒール履いてるわけじゃないし、床も固くないから。

何年も前のことだけど、本当に疲れていた時、やっと帰宅してシャワーを浴びてたら、シャンプーするのに腕を上げるのが無理だったことがある。水を浴びながら動けなくなり、もう寝るだけの体力しか残ってないと思ってびしょ濡れのまま風呂から出てそのままベットに倒れ込んだことがあった。真夏にガソリンスタンドで一日中、洗車をやってた時なんかも、今よりずっと疲れていた。

新しいバイトはすごくいいところ。お客さんで俳優さんがきた。常連らしい。この俳優さんと、五年くらい前に仕事したことがある。小さな映画で、私は助監督で入っていた。その現場は苦労したが、(私が仕事できなさすぎたんだろう)思い返すとまだ青春の名残がある。当時はその俳優さんと話せる機会なんてほぼなかったが、今日になって、天気のことなんかで話しかけられた。全く違う場所で、違うことをしながら、別人としてまた会うとはなあ。